ハリエット嬢(60)
Miss Harriet
Maupassant
..————————【60】——————————————
Si la pauvre fille avait su ?
La petite bonne Céleste ne la servait pas volon-
tiers, sans que j' eusse pu comprendre pourquoi.
Peut-être uniquement parce qu' elle était étrangère,
d' une autre race, d' une langue, et d' une autre
religion. C' était une démoniaque enfin !
..—————————《訳》———————————————
こんな風評を老嬢が知ってしまったらどんなに気の
毒なことか.
女中のセレストは、なぜだかは分からなかったので
すが、老嬢には積極的に給仕をするということがありま
せんでした.おそらくは、ただ彼女が外国人で、人種も
違うということ、言語も違うということ、さらに宗教が
違うということによるものだったのでしょう.とどのつ
まりは悪魔だったということなのでしょう.
.—————————〘語句〙——————————————
uniquement:(副) もっぱら、ただ
enfin:(副) とどのつまりは
..—————————≪注意点1≫——————————————
Si la pauvre fille avait su ? 後半の条件法の部分がありま
せん.読み手のほうで、文を書いておけ、と言っていま
す.ちょっと乱暴な作者ですが、相手がモーパッサンな
のでおとなしく従いましょう.
Si la pauvre fille avait su, comme elle aurait blessé le cœur
à elle.
こんな噂を老嬢が知ってしまったら、どんなに傷つく
ことか!
..—————————≪注意点2≫——————————————
la petite bonne Céleste:あのちょっといい子のセレスト
(おそらく宿の女中か何か)
読み手は初めての言葉なので定冠詞は間違いだろう
と思ってしまいますが、ここも宿に付随する女中さん
だと考えるのがいいと思います.コーヒーカップ(tasse
à café)が了解の語になってla がつけば、その耳(anse)
も定冠詞になります.la tasse à café のあとにune
anse と来れば、え?となります.それはどの耳で
もいいんだ、と解釈されます.
なおpetit(e)は身分の低いという意味もありますが、
ここでは素直に「ちょっとした」で、bonne 「いい子」
を修飾します.la が付いているので、宿に付随する、
つまり使用人とか女中を意味する語と受け止めましょ
う.