語学学習日記(フランス語学習)ハリエット嬢(172)


ハリエット嬢(172)
Miss Harriet 
Maupassant


——————————【172】———————————————
 
 Et  je  comprenais  qu' elle  crût  à  Dieu,  celle- là,
et  qu' elle  eût  espéré  ailleurs  la  compensation  de
sa  misère.   Elle  allait  maintenant  se  décomposer
et  devenir  plante  à  son  tour.   Elle  fleurirait  au
soleil,  serait  broutée  par  les  vaches,  emportée  en
graine  par  les  oiseau,  et,  chair  des  bêtes,  elle
redeviendrait  de  la  chair  humaine.

    
———————————(訳)————————————————

  それだから私は彼女が神を、こちらの愛を信じたこと
には納得がいきました.彼女が惨めさの穴埋めを別のと
ころで期待していたことにも、私はやっと納得がいった
のです.今や彼女の身体は分解され、やがては草木にな
ってゆこう.陽日に花と咲き、牛たちに食べられ、種に
なって小鳥たちに運んでいかれ、家畜たちの肉になり、
また人間の肉に戻って来ることでしょう.

 

..——————————⦅語句⦆———————————————
   
comprenais:(半過去3単) < comprendre (他)
   ① 理解する、わかる
     [comprendre que + 直説法]
   J'ai compris que tu ne voulais pas le voir./ ぼくは君
        が彼に会いたくないことはわかりました.
      ❷ 納得する、もっともだと思う
    [comprendre que + 接続法]
   Je comprends qu'il soit mécontent. / 私は彼が不満
    なのはもっともだと思う.      
crût:(接続法3単) <croire (他) を(本当だと)信じる    
espéré:(p.passé) <espére (他) 希望する、期待する     
celle-là:amour から遠ざけられた彼女ですが、神からの
        amour を信じた、と言っています.  
    celle-ci = 俗愛、celle-là = 神の愛           
ailleurs:よそに、別の」ところに、ほかの場所で、  
se décomposer:(pr) に分解される、腐敗する、変質する     
plante:(f) 植物              
à son tour:今度は彼(女)の番で    
fleurirait:(半過去3単) < fleurir (他) 花で飾る   
broutée:(p.passé / 3単女)
    < brouter (他)(動物が草木を) 食む、食う   
serait broutée:(半過去受動態3単) 食べられる番だった  
vache:[ヴァッシュ](f)(英語=cow) 雌牛
serait broutée par vaches:
     今度は牛たちに食べられる順になった.  
emportée:(p.passé) < emporter (他) 運ぶ、持って行く  
graine:[グレヌ](f) 種
en graine:種になって    
chair:[シェール](f) 肉、身    
bêtes:[ベット](f) 人間以外の動物、けだもの、家畜
redeviendrait:(条現3単) < revenir (自) また~になる
      戻ってくる  
chair humaine:人間の肉

 

 
——————————≪読解≫ ————————————————

qu' elle eût espéré ailleurs la compensation de sa misère. 
彼女が惨めさの穴埋めを別のところで期待していた
こと(が私には納得がいった)


——————————≪ずれ≫ ————————————————

本文と訳とで少しずれました.眼前のハリエットさんを
見ながら、語り手のレオン・シュナルが半過去時制で回
想していきます.普通の回想なら「~だった」ですみま
すが、「やがて~だろう」という感想が入るので、時に
条件法が用いられたりします.半過去でありながら訳は
現在形にしました.仏検でこんな訳をつけると、不合格
答案なので、ご注意をお願いいたします.
 「~だった」と文法に即した半過去の訳ではだめなの
です.おそらく「半過去形」には条件法が担う「過去未来」
を担うことがあるからでしょう.文法的に整えるため、モ
ーパッサンは最後の文だけは、正しい「過去未来」用法
(条件法現在)で書いています.

 


———————≪先生方の訳との比較≫ ——————————————

【ゴタ生徒の拙訳】
今や彼女の身体は分解され、やがては草木になってゆこ
う.陽日に花と咲き、牛たちに食べられ、種になって小
鳥たちに運んでいかれ、家畜たちの肉になり、また人間
の肉に戻って来ることでしょう.

モーパッサン全集、青柳先生の訳】
今や、彼女は解体して、今度は植物になろうとしていま
す.彼女は、日光を浴びて、花を開くことでしょう.牝
牛に食べられ、種子となり、鳥に運ばれることでしょう.
そして、今度は動物の肉となり、ふたたび人間に戻るこ
とでしょう.

パロル舎、石田先生の訳】
もうすぐ彼女は土にかえり、今度は彼女自身が植物にな
ろうとしています.彼女はお日様のもとで花開くことで
しょう.牛どもに食べられたり、種となって鳥たちにつ
いばまれることでしょう.そして家畜の肉となり、つい
には人間の肉となることでしょう.

ちくま文庫、山田先生の訳】
今や彼女は解体して、みずから植物になろうとしていま
す.太陽の下で花咲き、雌牛に食べられ、小鳥たちに種
を運ばれ、そうして獣の肉となり、また人間の肉へとも
どってくることでしょう.